《風俗ガイド》優しく接してあげれば次回はワンラク上のサービスブログ:06月17日
当時のぼくは、
とある都市の大きな企業に勤め、マンションで一人暮らし。
ごく稀に母が田舎からぼくのもとを訪ねることがあった。
おいしいものを食べに行こうというぼくに、
母は親子水入らずで、のんびり部屋で過ごしたいと
わざわざ重たい野菜を抱えてやってくる…
ある日、仕事から帰ったぼくは、
オートロックのロビーから部屋いる母に
「ただいま。あけてー」
インターホン越しに呼びかけた。
ところが、母からの返事はなく、
マンション中に非常ベルの音が響き渡った。
母が部屋の開錠ボタンと非常ボタンを押し間違えたのだ。
ロビーで頭を抱えるぼくのもとへ、
青ざめた母がやってきた。
ぼくは恥ずかしさのあまり母をひどく責めた。
騒動の後、部屋には
母が作った夕方飯のにおいが立ち込めていた。
田舎から持ってきた野菜の和え物、
帰るタイミングにあわせて焼かれたであろう焼き魚、
細かく刻まれた葱の浮かんだ味噌汁に、揃えられた二人分の箸…
ショックの余り俯いて手をつけない母をよそに、
気まずい中、冷めた料理をぼくは黙って食べた。
あれからぼくも二児の母になり、
7〜8年たった今になって
あの出来事を頻繁に思い出すようになった。
恥ずかしいのは母ではなく、
つまらない見栄で
かけがえの無い時間を台無しにしたぼくだった。
今さらと思いつつも母に言った。
「お母さん、あの時ごめんね」
意に反し、母はその時の恐怖を、
近くにいたお兄ちゃんと笑い話のネタにしてケラケラ笑っていた。
ぼくが責めたことなど忘れているようにみえた。
それでも、母を思う時、
ぼくは真っ先にあの出来事を思い出す。
そして
「大したことないよ」
そう言えなかった自分を悔やみ続けると思う。
あの日の冷めてしまった母の手料理の味とともに…